群像劇とは、ひとつの舞台で複数のキャラクターが独立した物語を展開するが、全体を見るとひとつの物語として成り立つ表現手法のこと。
ガイ・リッチーが監督する映画『スナッチ』や、アニメ『バッカーノ!』などが有名。
この群像劇を世に知らしめた、金字塔ともいえる作品が『グランド・ホテル』だ。
金字塔過ぎて、群像劇のことを「グランドホテル方式」と呼ぶようになったほど。
今回はそんな『グランド・ホテル』をご紹介したい。
『グランド・ホテル(原題:Grand Hotel)』は、1932年に公開されたアメリカの映画だ。
当時としては斬新なストーリー展開であったことから、アカデミー賞最優秀作品を受賞した。
ここからは、物語の概要を、登場人物ごとにお届けする。
1. 紳士的な泥棒「ガイゲルン男爵」
ガイゲルンは、グランド・ホテル内でも顔の知れた紳士だ。
しかしその本業はホテル荒らしで、宿泊客の貴金属を盗むことで生計を立てていた。
詳しく語られないが、組織に属しているようで、ターゲットやノルマなどがある様子(本人は脅されていると供述)。
今回のターゲットはグルシンスカヤが所持する真珠のネックレスで、これを手に入れるため、彼女に近づいた。
一方で、非常に人当たりがよく、女性の扱いにも長けていることから、真実を知らない人々は彼を友好的に捉えている。
見るからに人付き合いが苦手そうなクリンゲラインにも、友人として遊びに連れて行くなど、面倒見のいい面も見せた。
グルシンスカヤの部屋に盗みに入ったところ、彼女と鉢合わせることになる。
一晩中語り合ったことでグルシンスカヤに恋をしたガイゲルンは、プライドからか彼女のネックレスをあきらめた。
ガイゲルンは、グルシンスカヤと穏やかな日常を送るため、自力で金を集めて組織を抜けることを決意する。
2. 人気と自信を失ったバレリーナ「グルシンスカヤ」
グルシンスカヤは名の知れたバレリーナだった。
巡業のため、劇場とグランド・ホテルを往復する毎日を送る。
しかし、最近は人気が落ちており、空席の目立つ劇場で踊ることにむなしさを感じ、自信をなくしていた。
自らの栄光が過ぎ去ったことを悟った彼女は、ホテルの自室で自殺することを考える。
そんな時、グルシンスカヤのネックレスを盗みに入っていたガイゲルン男爵と鉢合わせる。
彼はグルシンスカヤのファンだと言い、自殺しようとする彼女を慰め、一晩中話を聞いた。
二人は互いに惹かれあい、巡業が終わったら二人で暮らすことを約束する。
これによって自信を取り戻した彼女は、自分はまだ踊ることができると確信し、ハイテンションで巡業に出かける。
彼女の踊りは大盛況のうちに終わった。
グルシンスカヤは、ガイゲルンに成功を報告するため、彼に電話をかけた。
3. 成功を夢見る口述筆記記者「フレムヒェン」
フレムヒェンは、フリーで口述筆記を行うタイプライターだ。
プライジングに雇われ、グランド・ホテルを訪れた。
慢性的に金欠であることから、ヌードモデルをして金を稼いだり、食事を1日に1回にするなど、生活のためにその身を削っている。
なお、旅行が趣味らしく、頻繁に友人と海外旅行に行くらしい。
フレムヒェンは、グランド・ホテルを訪れた直後にガイゲルン男爵に出会い、口説かれることで恋に落ちる。
しかし、ガイゲルンがグルシンスカヤに惚れたことで、「口説かれた翌日にフラれる」という悲惨な目にあう。
直後にプライジングから関係を迫られたフレムヒェンは、金のために受け入れることを決意し、プライジングの部屋に向かう。
4. 取引を焦る社長「プライジング」
プライジングは、経営難に陥った会社の社長だ。
なぜかモップの販売と輸出に力を入れている。
作中ではモップを作っていることしか明らかにされていない。
グランド・ホテルには、他社と経営統合の会議をするために滞在している。
経営統合には、他国の大企業との提携が条件とされていたが、会議の直前、その企業から提携拒否の連絡を受けてしまう。
経営統合が結べないと会社の存続にかかわると焦ったプライジングは、とっさに提携が決まったとうそをつく。
これまで誠実に生きてきたと自負しているプライジングは、自分の不誠実な行動にショックを受け、気晴らしのためにフレムヒェンに不倫を持ちかける。
プライジングは、高額な報酬と仕事の継続を餌に、フレムヒェンを自室に招いた。
5. 余命わずかの社畜「クリンゲライン」
クリンゲラインは、プライジングの経営する工場に長年勤務し、安い給料で奴隷のように働かされていた。
しかし、余命がわずかであることを宣告される。
残りの人生を楽しもうと、こつこつと貯めていた貯金を使って豪遊するために、グランド・ホテルを訪れる。
これまでまじめに生きてきた彼は、豪華なホテルで高い酒をのむなどして必死で自分を満たそうとしていた。
そんな彼は、ガイゲルン男爵やフレムヒェンと出会い、本当に幸せだと思える時間を過ごす。
見所
以上が本作の概要だ。
見所はやはり、複数の登場人物が織り成す物語がひとつになっていく表現技法の部分だと思う。
最近ではこういった手法があふれているため、残念ながら斬新さを感じることはできないが、公開当事に本作を見た人は大いに感動したことだろう。
本レビューでは、主要となった5人を紹介したが、このほかにも、出産を待ち望むホテルのボーイや、手紙を待ち続ける医者など、サブキャラクターが作品を盛り上げている。
それぞれのキャラクターがどのような結末を迎えるのか、ぜひ自分の目で確かめてみて欲しい。
一方で、本作品には大きな山場のようなシーンは特になく、淡々と物語が進んでいくため、退屈に感じてしまう人もいるかもしれない。
時間と心に余裕があるときに、まったりと音楽を聴くかのような気持ちで視聴したい映画だと思う。
まとめ
正直なところ、私は群像劇を『バッカーノ!』で知った。
正確には、『バッカーノ!』が『スナッチ』のオマージュだと知り、『スナッチ』を観た。
『スナッチ』視聴後に色々と調べた結果、グランドホテル方式という言葉を知って『グランド・ホテル』にたどり着いた。
そんな私が『グランド・ホテル』を観て最初に抱いた感想は、「思いのほかグランドホテル方式してないな」だった。
『バッカーノ!』や『スナッチ』は、登場人物が10人以上おり、それぞれの物語がひとつのストーリを紡いでいる。
それに対して、『グランド・ホテル』は、主要な登場人物が5人ほどだった。
このため、私としては物足りなさを感じてしまった。
余談だが、私はこの作品をDVDを購入して視聴したのだが、特典映像に淀川長治さんの解説が収録されていた。
淀川長治とは、映画評論家のおじいちゃんで、日曜洋画劇場の冒頭で毎回盛大にネタバレをかましていた人だった。
私はネタバレを嫌うのと、そもそもこの人の喋り方が何を言っているのか聞き取りづらいことなどから、日曜洋画劇場を視聴する際は解説シーンを飛ばしていた。
しかし、映画好きからは人気のある人であったこと、折角購入したDVDに特典として収録されていたことから、彼の解説を聞いてみた。
・・・が、まったく見当違いのことを言っている様な気がしてならない。
考察についてではなく、シーンの説明が見当違いなのだ。
彼は解説の中で、「グルシンスカヤがガイゲルンに次々と宝石を渡した」と言っていたのだが、何度見返してもそんなシーンは存在しない。
二人が初めて出会うシーンについても、「カーテンの裏に隠れたガイゲルンをグルシンスカヤが見つけた」と言っているが、ガイゲルンは自ら彼女の前に姿を現している。
未公開シーンや初期の脚本の話なのかもしれないが、そんなことは特に言及していない。
なんだかとてももやもやした気分にさせられるのだが、もしこの件について詳しい方がいらっしゃれば、ぜひどういうことなのか教えてくださいほんとお願いします。